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2002/12/09 update

里親・養親 インフォメーション

12・8 里親制度の充実に向けた緊急要望書

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事件の報道資料 / シンポの案内 / 緊急集会レポート

 

里親制度の充実に向けた緊急要望書


 11月3日、栃木県宇都宮市で、養育里親が3歳の女の子を殴って死なせてしまいました。この里親は、韓国で幼稚園教諭を9年間務めたあと、夫とともに5年前日本に引っ越してきました。2000年2月に里親登録し、昨年12月に男の子(4才)をあずかり、児童相談所のすすめで、さらに今年7月に妹・順子ちゃん(3才)をあずかりました。ところが、子どもがよく泣くことやいうことを聞かないことなどから殴ってしまい、順子ちゃんは3才で亡くなりました。遺体の腕や脚などには多数の古いアザがあり、李容疑者が虐待を繰り返していた疑いももたれています。

 一方、1才まで母親の元で育てられ、順子ちゃんと一緒に乳児院に入所した兄(4才)は、虐待の形跡も見られず、里親との関係は良好だったようです。このことから、生後すぐに乳児院に入所し、24時間の集団養育環境で育った妹の順子ちゃんは、愛着関係に問題があり、大変に育てにくい子であったと私たちは推測しています。

 特定の養育者との愛着形成が出来ず、「愛着障害」となった子どもの養育が大変に難しく、その結果、虐待につながりかねないということは、過去から多くの里親たちが指摘してきたことです。
 近年知られてきたRAD(Reactive Attachment Disorder−反応性愛着障害)は、乳児院など施設の集団養育が長く、特定の養育者との信頼関係を築き得なかった子どもがなるといわれています。50万人以上の家庭養護(foster care)されている子どもがいる養子大国アメリカでは、養子・里子の問題行動が研究され、それがひとつの精神障害として認識されています。アメリカ精神医学会が発行している、精神医学の世界で最も大きな影響力を持った診断基準であるDSM−W(精神障害の診断と統計マニュアル第4版−Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)にも、RADの診断基準がのっています。

 乳児院では、愛着障害防止のために、担当制を導入するところも出てきました。しかし、現行の保育者の配置基準では、夜勤や公休を入れると、単純計算でひとりで8人以上の乳幼児を世話している状況であり、子どもからみたら10人以上の養育者に交代で世話される状況で、 特定の養育者との愛着を形成することは到底不可能です。
さらに、全国乳児福祉協議会の調査では、3ヶ月以上乳児院にいる子どもが6割を占めています。そのうち1年以上2年未満の子どもが24%、2年以上いる子どもが14%、併せて40%もの子どもが、1年以上乳児院で生活しています。人間としての基本的信頼関係を築くべき、人生でもっとも大切で貴重な乳幼児期を、特定の大人との愛着関係を築くことなく、集団で育つことを余儀なくされています。
 乳幼児の発育には、特定の養育者との愛着形成が必要不可欠であり、養育者との無条件の信頼関係を作ることで、その信頼関係を発展させ、他者との関係を作り上げていくことが出来ます。その心の基盤を作るべき大切な乳幼児期に、集団の中で育てられ、無条件の信頼関係を持ち得ない子どもは、成長するに従い、さまざまな問題を起こしていきます。心から信頼する相手を持たない愛着障害の子どもは、成長するにつれ、心にポッカリと穴があいたような空虚感を訴えます。それを里親や施設職員が埋めることは、容易なことではありません。愛着障害は、里親などの養育者だけではなく、当の子ども自身をも苦しめています。
しかし、行政は、なるべく早い時期から里親家庭で育てるべきという里親たちの声には耳を傾けず、2歳頃まで子どもを乳児院に措置し続けています。児童養護施設に移る措置変更の時期になり、ようやく、養育里親を選択肢として検討するに過ぎません。このように、乳児院などの施設で子どもを愛着障害にし、委託された養育里親が苦労しているのが現状であり、今回の事件の重要な背景であると私たちは考えています。
愛着障害を防ぐには、乳幼児専門里親を新設し、里親家庭で育てながら、家庭復帰を目指したり、長期里親を選定するなどの施策が必要です。是非、乳幼児は原則里親委託としてください。

 今般、RAD(反応性愛着障害)やADHD(注意欠陥多動障害)、LD(学習障害)など、育てにくい子どもの障害が知られるようになりました。また、肉体的・精神的・性的虐待を受けた子どもやネグレクトの子どもへの関わり方も、研究が進んできました。さらに、子どもの抱える問題は複雑化・深刻化し、今まで以上の知識と技量が里親に要求されるようになりました。
また、虐待を受けた子どもは、誤ったコミュニケーション・スキルを学習し、虐待を誘発する言動を繰り返すため、養育者が手を挙げかねない状況に追い込まれることなども知られてきました。さらに、虐待を受けていないと思われる子どもであっても、里親家庭の安心できる環境の中で、過去の虐待を行為として表現(アクトアウト)し、それが問題行動として現れる場合もあります。さらにいえば、里親家庭に委託される全ての子どもが、親との別離を含めたトラウマを抱えています。
 このような、いわゆる育てにくい子どもへの関わりは、里親の側にも、かなりの知識と技量が必要となります。ところが、このような研修は今までまったく行われず、今年創設された「専門里親研修」において、ようやく取り入れられたにすぎません。このような研修は、専門里親だけでなく、すべての里親に必要な研修であるといえます。

 また、養育里親が育てにくい子を抱え込み、地域から孤立するのであれば、密室育児の環境で子どもを虐待する親たちと何ら変わることはありません。必要に応じて、児童相談所や地域の専門機関、里親会の助けを求める子育てのオープン化は、社会的養護を担う養育里親には必須の心構えです。そのような児童相談所の指導があったのか、はなはだ疑問であります。

 さて、日本政府が批准している「子どもの権利条約」第20条には、「家庭環境を奪われた児童又は児童自身の最善の利益にかんがみその家庭環境にとどまることが認められない児童は、国が与える特別の保護及び援助を受ける権利を有する」とあり、さらに、国の与える代替的監護として、「特に、里親委託、イスラム法のカファーラ、養子縁組又は必要な場合には児童の監護のための適当な施設への収容を含むことができる」とあります。
 ところが、日本政府が子どもの権利条約を批准したにもかかわらず、「必要な場合」以外にも、児童養護施設への入所が優先され、里親家庭への委託は少ないままでした。
 日本では、社会的養護が必要な子どもの大部分が児童養護施設や乳児院に措置され、里親家庭で育つ子は6.4%にすぎません。片や欧米では、米国の77%を筆頭に、アイルランド73%、デンマーク61%、英国58%、オランダ53%、フランス52%と続いています(2000年度)。

 さらに日本では、親が育てられない子どもの大部分が、本人の意志とは無関係に児童養護施設などの施設に行かざるをえません。家庭を失うだけでなく、転校により学校の友だちを失い、住み慣れた地域や地域の知り合いを失い、見知らぬ土地の児童養護施設で集団生活を余儀なくされ、新しい学校に通うことになります。
 「子どもの権利条約」第12条には、「児童は、特に自己に影響を及ぼすあらゆる司法上及び行政上の手続において、国内法の手続原則に合致する方法により直接に又は代理人若しくは適当な団体を通じて聴取される機会を与えられる」とあります。
しかし、子どもが意見を表明できる手続が定められていないこともあり、児童養護施設に行くのか、地域の養育家庭に行くのか、子ども自身が選択できず、結果として児童養護施設などの施設に入所させられています。

 私たち里親は、子どもの権利の代弁者として、この事件を契機に、緊急提言をいたします。是非、国の里親制度に、私たちの意見を組み入れ、親が育てることが出来ない子どもの権利が守られ、幸せに育つことができる環境を作っていただきたいと願うものです。

  1. 乳幼児は原則里親委託とする委託基準を定め、乳幼児専門里親を設置してください。
  2. 里親への研修をより充実させるとともに、研修の定期的な受講を義務づけてください。
  3. 児童相談所を強化し、里親家庭への訪問期間を基準化するなど、里親への支援体制を充実させてください。
  4. 里親に対するレスパイトケアを充実させてください。
  5. 「子どもの権利条約」第20条に基づき、家庭環境で育つことができる子どもを増やしてください。
  6. 「子どもの権利条約」第12条に定める「子どもの意見表明権」を具体化する仕組みを構築してください。
  7. 里親制度への市民の理解と促進を図るために、大々的な広報・啓発活動を行ってください。

以上、決議し、厚生労働大臣に要望致します。

平成14年12月 8日

厚生労働大臣 坂口 力 殿

東京都養育家庭連絡会
12・8緊急要望書 賛同者一同

2002/9/4 sido