里親ファミリーホーム全国研究協議会参加者へのお願い
2008/08/09

sido(東京都 養育家庭里親)

里親ファミリーホーム全国研究協議会にお集まりの里親及び児童福祉関係者のみなさんへのお願いです。

昨年、厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会児童部会では、「児童の社会的養護の拡充に向けた具体的施策」を検討するため、社会的養護専門委員会を設置しました。里親関係の委員として、庄司順一氏(青山学院大学文学部教授・川崎市里親会会長)、木ノ内博道氏(全国里親会埋事・前千葉県里親会会長)が委嘱され、5回の委員会を開催し、「社会的養護体制の充実を図るための方策について」と題した報告書をまとめました。

この報告書をうけ、厚生労働省は「養子縁組里親と養育里親の区別化」「小規模住居型児童養育事業(里親ファミリーホーム)の創設」「20才未満までの自立支援」「施設内虐待の通告義務化や防止規定」などの児童福祉法改正案を国会に提出しました。しかし、この改正法案は5月29日に衆院を通過しましたが、「ねじれ国会」のなか参議院で審議に至らず、継続審議にもならず廃案となりました。改正法案は9月招集予定の臨時国会に再提出される見込みです。成立まで、注意深く見守っていきたいと思います。

さて、社会的養護専門委員会の検討課題には、乳児院・児童養護施設の長期入所の問題、乳児の里親への早期委託等、検討課題にあがっていないこともたくさんあり、里親有志で里親意見書(HP参照)を提出しました。多くの方に、乳児院・児童養護施設に長期間入所し、子ども時代のすべてを施設で生活する子どもの存在を知っていただき、子どもの家庭で暮らす権利の実現に向けて、ご理解とご支援をいただければと思います。

○子ども時代のほぼ全てを施設で育つ子が1割

厚生労働省の5年ごとの調査資料「児童養護施設入所児童等調査結果の要点(平成15年2月1日)」(以降、「厚労省調査」と呼ぶ)では、児童養護施設の入所児童の平均在所期間は4.4年(平成10年調査では4.8年)となっています。

同調査によると、10年以上児童養護施設に入所している児童は3,125人であり、全入所児童の10.3%にあたります。さらに、平均を超えた5年以上養護施設に入所している児童は10,436人であり、これは全入所児童の34.3%にあたります。

また、乳児院から児童養護施設に措置変更された児童は5,558人であり、児童養護施設入所児童の18.3%にあたります。乳児院・児童養護施設と継続する通算入所期間の調査項目がないため、子ども時代の全てを施設で育つ子どもの実数は正確に把握できませんが、1割近くいると考えられます。児童養護施設は、短期間の入所児童が大半ですが、子ども時代のほぼ全てを施設で暮らし、家庭を全く知らない子どもがいる現実もあります。

「未成年者に親権者がいないとき、または、親権者が管理権を有しないときは、児童相談所長が家庭裁判所に対して未成年後見人の選任を請求しなければならない」ことになっています(児童福祉法第33条の七)。しかし、親が所在不明であったり、いても育てることができない場合にも、未成年後見人が選任されず親権を行うものがいないため、里親委託の承諾がとれないなどの理由で、乳児院・児童養護施設で生活し続けています。児童福祉司も数年で担当が変わり、その子どもだけを気にかける大人はいません。いわば、乳児院・児童養護施設に忘れ去られた子どもです。

○赤ちゃんポストに遺棄された子どもは、全員乳児院へ行き、里親委託・養子縁組は皆無

平成20年5月21日付毎日新聞によると、昨年5月に設置した熊本市の「赤ちゃんポスト」に3月末の約11ヶ月間に遺棄された子どもは17人(男13人、女4人)であり、親の身元が判明した9名のうち、1人だけが親元に引き取られ、それ以外の16人は、全員乳児院に入所しています。熊本県の乳児院は、定員60人のところ、入所が61人のため、1人県外の乳児院に入所させ、充足率101.7%となっています。しかし、遺棄児童は、1人として里親委託されていません。元熊本県知事が乳児院の施設長だったことと関係があるのでしょうか。

親に遺棄された子どもは、それに代わる家庭を与えられるべきであるにもかかわらず、親権者が不明であることから、「親の承諾が得られない」「親がいつ引き取りに来るかわからない」などの理由で、人間としての基本的信頼関係を構築すべき人生の一番大切な乳幼児期を乳児院の集団のなかで過ごし、特定の養育者との愛着を作ることが出来ません。さらに、児童福祉法の規定により未成年後見人を選定すべきであるにもかかわらず、未成年後見人も選定されていません。

「親が現れるかもしれない」と里親委託を先延ばしにし続けた結果として、子ども時代のすべてを施設で過ごすことになり、身よりもないままに、たった1人で社会に出て行くことになります。赤ちゃんポストなどへの遺棄児童は、1〜3ヶ月以内に親が現れなければ、遺棄児として養子縁組や養育里親委託を行うよう規定を定めるべきです。

○登録里親への子どもの委託は3割

厚生労働省の行政報告例によると、平成19年3月末の里親の現状は、登録里親7,882家庭に対して、2,453家庭の里親に3,424人の子どもが委託され、登録里親への児童委託率は31.1%となっています。

残りの5,429家庭(68.9%)の登録里親は、子どもの委託がないままに里親とは名ばかりの存在となっています。この5,429家庭の未委託里親は、先ほどの、子ども時代の全てを施設で過ごす3,125人の子どもを引き受けても余りある数字です。

10年以上児童養護施設に入所中の家庭で育つ事ができない子どもが3,125人いて、片や、子どもへの熱い思いを持って登録した5,429もの里親家庭が、長年子どもの委託がないままに思いが朽ちていく。この現状は、看過できるものではありません。

登録里親への児童委託率の低さを、「子どものための幅広い選択を行うために必要である」と容認する大学関係者もいますが、「登録後何年経ってもマッチングの話すらない」「養子縁組希望は3割に過ぎず、残りは養育希望であるにもかかわらず委託されない」「短期間で異動する経験の浅い児童福祉司」「一般事務職が児童福祉司になる」「乳児院・児童養護施設の経営の安定のために施設入所を優先する」「自治体幹部職員が児童福祉施設の施設長に天下りする」などの実態から目をそらした意見です。

また、都道府県政令市別に見ると、登録里親への児童委託率が第1位(59.5%)の東京都と最下位の山形県(10.7%)では、最大5.6倍もの自治体間格差がある現状では、「幅広い選択」云々は、里親委託の努力をしない言い訳でしかありません。

大学関係者は、乳児院・児童養護施設に学生の実習をお願いする立場であり、また卒業生の就職先でもあるため、施設養育への批判的な意見は出しづらいといえます。

○「一貫養育」施設が増えると里親委託は減る危険性がある

平成16年の児童福祉法改正では、乳児院の入所期限が2歳から6歳まで延長されました。改正前は乳児院で家庭に帰ることのできない子どもは、2歳の措置変更の際に児童養護施設入所か里親委託が検討され、乳幼児が里親家庭にいける数少ないチャンスとなっていました。

「厚労省調査」の、@2歳で里親委託される子どもが525人であり里親委託児童2,454人の21,4%を占めること、A0歳から2歳までの里親委託児童は1,112人(45.3%)であること(右図)、B里親委託児童の32.6%(799人)が乳児院から委託されていることなどの数字から、乳児院からの措置変更時に、里親委託を検討し、現実にかなりの数の乳幼児が里親へ委託されているといえます。

 

メモ: 2007年9月26日 読売新聞
名古屋市 乳児院と児童養護施設一本化 建設に前向き姿勢

名古屋市は25日に開かれた9月定例市議会本会議で、家庭で生活できない0〜18歳の子どもたちを一貫して養育する施設の建設に前向きに取り組んでいく考えを明らかにした。
市は乳児院3か所で親から育児放棄や虐待を受けた乳児らを保護している。しかし乳児院は乳児らを養育する施設のため、2歳児になると、乳児院と児童養護施設を併設している同市若葉寮(尾張旭市)を除き、乳児院と併設されていない児童養護施設13か所に移している。
この日質問した小林祥子氏(公明)は2歳児が同施設に移ることについて、「甘えたい盛りに、慣れ親しんだ職員や子どもたちから引き離され、環境の異なる児童養護施設にたった1人ぼっちで移されることになる。その時受けたショックは計り知れない」と継続した受け入れ施設の建設を求めた。
これに対し、子ども青少年局の佐合広利局長は「乳児院と児童養護施設の連携を密にするなど、児童への影響が最小限になるような取り組みが大切と考えている」と、乳児院と児童養護施設の一本化について積極的に取り組む考えを示した。
市は2010年度までに3か所の民間児童養護施設を改築する計画を立てており、その建物内に乳児院のエリアを設けることを検討するという。
さらに子どもにとって不幸なことに、名古屋市など各地で「0歳から18歳まで一貫養育する児童養護施設」の建設が検討されています。

「厚労省調査」では、乳児院から児童養護施設への措置変更児童の割合は18.3%であり、その中には1歳で措置され、3歳で家庭復帰する子どもも含まれています。

@乳児院からの措置変更児の81.7%は家庭復帰や里親委託していること、A児童養護施設の平均入所期間は4.4年であること、B児童養護施設に10年以上入所している児童は10.3%であることなどから、「一貫養育施設」の建設は必要性がなく、施設への子どもの囲い込みのための施策といえます。

そもそも、長期間、家庭復帰が望めない子どもは、養子縁組や里親委託を優先すべきであり、一貫養育施設で子ども時代の全てを過ごすことは、行政の不作為による「ネグレクト」といえます。

○乳幼児は家庭での愛着形成が必要

欧米では、社会的養護の主流は、里親養育などの家庭的養育であり、乳幼児の長期施設収容は皆無だと聞きます。施設養育は、中学生以上、又は、重篤なケアを必要とする子どもだけとなっています。その施設も、子ども10人に職員が30人以上などという、日本とは逆の濃厚なケアを行える体制となっています。

片や日本では、児童養護施設では子ども6人に職員1人、乳児院では子ども1.7人に職員1名の配置であり、三直公休の勤務態勢を組むと、実際の直接処遇は、児童養護施設では職員一人に子ども24人、乳児院では職員一人に子ども7人の計算になります。

また、職員の平均勤続年数は3、4年であり、担当制と言いながら毎年担当が替わったり、部屋替えがあったりと、特定の職員との継続した愛着形成は望むべくもありません。乳幼児は、建物や施設環境に愛着を持つのではありません。移り変わっていく大人ではなく、自分だけを愛してくれる「いなくならない大人」とその環境に愛着を持つものなのです。しかし、乳児を里親に委託しているのは、62都道府県政令市のうち16自治体のみです。(平成19年3月福祉行政報告例より)

○里親不調の一因は、反応性愛着障害(RAD−Reactive Attachment Disorder

2002年11月3日、栃木県宇都宮市で、養育里親が3歳の女の子を殴って死なせてしまいました。亡くなった女の子は、生後すぐに乳児院に入れられ、3才過ぎて委託されるまで乳児院で育ちました。一方、1才まで母親の元で育てられ、妹と一緒に乳児院に入所した兄(4才)は、虐待の形跡も見られず、里親との関係は良好だったようです。

このことから、生後すぐに乳児院に入所し、24間の集団養育環境で育った妹の順子ちゃんは、反応性愛着障害児の可能性があり、大変に育てにくい子であったと推測しています。

特定の養育者との愛着形成が出来ず「反応性愛着障害」となった子どもの養育が大変に難しく、その結果、虐待につながりかねないということは、過去から多くの里親たちが指摘してきたことです。

日本でも近年知られてきたRAD(Reactive Attachment Disorder−反応性愛着障害)は、乳児院など施設の集団養育が長く、特定の養育者との信頼関係を築き得なかった子どもがなるといわれ、DSM-W(精神障害の診断と統計の手引)にも項目があり、診断名を付けられる子どもも出てきました。

「厚労省調査」によると、里親家庭からの措置変更数は、里親家庭から里親家庭へ78名、児童養護施設へ269名、情緒障害児施設へ11名、自立支援施設へ12名、乳児院へ5名、合計375名が措置変更となっており、これは、同調査の里親委託児童2,454名の15%にあたります。「里親不調」の統計的な調査がないため、推測でしか言えませんが、反応性愛着障害による「里親不調」もかなり含まれるものと考えられます。

アメリカでは、反応性愛着障害を治療する通所施設(attachment center)が、州ごと作られていると聞きます。日本でも、「乳幼児は原則里親委託」を基本とし、乳児院への入所期間を3ヶ月以内に制限すれば、「反応性愛着障害」やその結果としての「里親不調」の問題は減らせます。

○調整弁として使われる里親委託、児童養護施設の新規建設は里親委託をさらに減らします

さて、少子化により子どもの数が減っているにもかかわらず、児童養護施設・乳児院への措置児童の割合は減らず、里親委託児童の割合のみが減少していました。登録里親への委託は2〜3割を推移しているので、乳児院・児童養護施設の入所児童の減少を、里親委託の対象児で補っていると言えます。

里親委託率は、平成11〜13年度で下げ止まりし、少しずつ増えていますが、平成19年3月末の児童養護施設の定員充足率88.2%の数字から見ると、児童養護施設が満杯状態になり、その受け皿として里親委託が増えている状況です。

児童養護施設の数は、平成元年度の535施設から減少し、平成9年度の526施設から増加に転じ、平成18年度では560施設となり、さらに児童養護施設の建設は続いています。児童養護施設の運営の安定のためには、定員数の子どもが必要であり、定員に満たなければ、里親に行くべき子どもまで施設に入れることになります。

子どもは、児童養護施設の定員を満たすために生まれてきたのではありません。たった1人の子どもとして家庭で大切に育てられるために生まれてきたはずです。

○乳児院・児童養護施設の「一貫養育」の経費は、最高で約1億1千5百万円

平成19年3月に公表された千葉県「社会的養護を必要とする子どもたちのために〜千葉県における社会的資源のあり方について 答申〜」によると、県立乳児院の乳幼児1名にかかる経費は月額約96万円、県立児童養護施設の児童1名にかる経費は月額約45万円とあり、民間施設はその3分の2の経費となっています。

0歳から18歳まで、乳児院・児童養護施設で育つと、公立施設で1億1,520万円、民間施設で7,680万円かかる計算になります。里親養育は、里親手当や養育費から計算すると約1,820万円の経費となります。

子どもたちは、なぜ、1億円ものお金をかけながら、子ども時代の大半を施設に居続けなければならないのでしょうか。ちなみに、生命保険会社などのHPによると、一般家庭で子どもを大学まで卒業させると、0〜22歳までの養育経費は2,300万円といわれています。

○要養護児童の里親委託率の自治体間格差

平成19年3月の要養護児童の里親委託率を都道府県政令市別に見ると、第1位(28.9%)の新潟県から、最下位の堺市(1.1%)まで、実に26倍もの格差があります。

新潟県で措置された子どもの3割弱が里親家庭に行くことが出来るのに比して、堺市では里親家庭に行くことが出来る子どもは、わずか1.1%(要養護児童284人中3人)です。

児童養護施設の定員充足率と、里親への委託率には相関が見られません。児童養護施設が定員いっぱいであっても、里親委託が低いところと高いところがあります。子ども時代の全てを施設集団の中で育つか、里親家庭で自分だけ大切にされて育つかは、措置された自治体によって決まります。

○国連子どもの権利委員会が勧告

19年3月現在、社会的養護の児童は36,326人であり、内訳は里親委託児3,424人(9.4%)、児童養護施設入所児29,889人(82.3%)、乳児院入所児3,013人(8.3%)となっています。日本は要養護児童の90.6%が施設に入所する「施設大国」です。

子どもの権利条約第20条で定める「子どもの家庭で暮らす権利」が守られていない日本の現状は、国連子どもの権利委員会からも憂慮され、改善勧告が出されています。

○お隣の韓国では10年間で里親委託が半数以上

昨年(2006年)、韓国で開催されたアジア里親大会では、日本と同じ「施設大国」であった韓国が、10年間で里親養育が半数以上になったと報告されました。

その大きな理由は、里親委託事業を公的機関だけでなく民間機関にも行わせ、官民で里親委託を競わせた結果、里親への児童委託率が増えたとのことです。

アメリカでも、里親委託や委託後のケアを、民間社会福祉事務所に行わせている州が少なくありません。

日本でも、市場化テストなどにより、里親委託業務を社会福祉法人などの民間団体に業務委託し、児童相談所と競わせる必要があります。

○家庭で育つことの出来ない子どもの代弁者は誰?

私たち里親が、家庭で育つことのできない子どもたちの代弁者にならなければ、いったい、誰がなるのでしょうか?

障害者福祉や老人福祉は、親や本人が声を上げることにより、様々な施策が展開されて来ました。しかし、児童養護の世界は、戦後60年間、変わらぬレベルにあります。

額縁: 1.乳幼児は原則里親委託とする事。
2.乳児院・児童養護施設の入所期間の上限を
定めること。
3.長期間、乳児院・児童養護施設に入所する
児童は、親権を制限し、職権で里親委託するしくみを作ること。
多くの里親と関係者に、施設で育つ子どもの代弁者として、自治体や関係議員に伝えて欲しいとと願っています。



※ここに掲載出来ない資料は、以下のサイトに掲載しました。

⇒里親さんを勝手に応援するサイト http://sky.cside6.com/hooray-fosterfamily/  または  http://foster-family.jp/