From 2007/10/27 更新
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sido (東京都 養育里親)
第53回全国里親大会にお集まりの里親及び関係者のみなさん。
いま、厚生労働省の諮問機関である社会保障審議会児童部会では、「児童の社会的養護の拡充に向けた具体的施策」を検討するため、社会的養護専門委員会を設置し、専門委員会での議論が行われています。委員会では、虐待を受けたり、養育放棄をされたり、親の都合など、様々な理由によって家庭で育つ事が出来ない子ども達の養育についての検討をしています。里親関係の委員として、庄司順一氏(青山学院大学文学部教授・川崎市里親会会長)、木ノ内博道氏(全国里親会埋事・前千葉県里親会会長)のお二人に委嘱されています。
この専門委員会は、初回は9月7日、第2回は9月25日に開催され、第3回委員会は10月23日に予定されています。その後まとめに入り、12月に児童部会に報告する流れとなっています。
初回及び第2回の委員会の議論を聞いて感じたことは、ここ数年、里親制度へは若干の追い風が吹いているように思われていましたが、里親制度の大幅な改善には、まだまだ、日暮れて道遠しという印象を受けました。
委員会には、施設生活当事者団体による施設処遇の改善要望や施設長や施設職員の資格要件の設定などの意見が出されましたが、子ども達を施設ではなく家庭で育てて欲しいという意見は出されませんでした。この意見に影響を受けたのかは不明ですが、委員会の議論は、施設内虐待や施設内児童間暴力、養護施設を出た子どもの自立支援センターを施設に作るなど、現行の養護施設中心の施策を継続される議論に終始した印象があります。
厚生労働省の5年ごとの調査「養護施設入所児童等調査結果の要点(平成15年2月1日)」(以降、「厚労省調査」と呼ぶ)では、児童養護施設の入所児童の平均在所期間は4.4年(平成10年調査では4.8年)となっています。
同調査によると、10年以上養護施設に入所している児童数は、3,125人であり、全入所児童の10.3%にあたります。さらに、5年以上入所している児童数は10,436人であり、全入所児童の34.3%にあたります。
また、乳児院から養護施設に措置変更された児童は5,558人であり、養護施設入所児童の18.3%にあたります。乳児院・養護施設と継続する通算入所期間の調査項目がないため、子ども時代の全てを施設で育つ子どもの実数は正確に把握できませんが、1割近くいると考えられます。児童養護施設には、短期間の利用児童が大半ですが、子ども時代のほぼ全てを施設で暮らし、家庭を全く知らない児童が一定数います。
未成年者に親権者がいないとき、または、親権者が管理権を有しないときは、児童相談所長が家庭裁判所に対して未成年後見人の選任を請求しなければならないことになっています(児童福祉法第33条の七)。しかし、親が所在不明であったり、いてもまったく会いにこない場合にも、未成年後見人が選任されず、親権を行うものがいないため、里親委託の承認がとれないなどの理由で、乳児院・養護施設で生活し続けています。児童福祉司も数年で担当が変わり、その子どもだけを気にかける大人はいません。いわば、養護施設に忘れ去られた子どもです。
専門委員会に出された厚生労働省のデータによると、平成17年度の里親の現状は、登録里親7,737家庭に対して、2,370家庭(30.4%)の里親に、3,293人の子どもが委託されています。1家庭あたり児童1.4人の委託になります。ただし、4〜6人受託するファミリーホームをのぞくと、1家庭あたり、1.1人の委託となります。
残りの5,367家庭(69.6%)の登録里親は、子どもの委託がないままに里親とは名ばかりの存在となっています。この5,367家庭の未委託里親は、先ほどの、子ども時代の全てを施設で過ごす3,125人の子どもを引き受けても余りある数字です。10年以上児童養護施設にいる家庭で育つ事ができない子どもが3,000人以上いて、片や、子どもへの熱い思いを持って登録した里親5,000家庭以上が、子どもを委託されずに思いが朽ちていく。この現状は、看過できるものではありません。
平成16年の児童福祉法改正では、乳児院の入所期限が0〜2歳から、0〜6歳まで延長されました。それまでは、乳児院で家庭に帰ることのできない子どもは、措置変更の際に、児童養護施設入所か里親委託が検討され、乳幼児が里親家庭にいくチャンスとなっていました。
「厚労省調査」によると、2歳で里親委託される子どもが525人であり、里親委託児童数2,454人の21,4%を占めます。0歳から2歳までの委託児童数は、45.3%にもなります。
また、「厚労省調査」では、里親委託児童の32.6%(799人)が、乳児院から委託されています。
家庭から | 乳児院から | 児童養護施設から | 他の児童福祉施設から | 里親家庭から | 家庭裁判所から | その他から | 不詳 | 総 数 | |
里親委託児 | 851 | 799 | 581 | 47 | 78 | 0 | 90 | 8 | 2,454 |
34.7% | 32.6% | 23.7% | 1.9% | 3.2% | 0.0% | 3.7% | 0.3% | 100.0% |
欧米では、社会的養護の主流は、里親養育などの家庭的養育であり、乳幼児の長期施設収容は皆無だと聞きます。
施設養育は、中学生以上、又は、重篤なケアを必要とする子ども達だけとなっています。その施設も、子ども10人に職員が30人以上などという、濃厚なケアを行える体制となっています。片や日本では、児童養護施設では、子ども6人に職員1人、乳児院では子ども2人に職員1名の配置であり、三直公休の勤務態勢を組むと、実際の処遇は、児童養護施設では職員一人が子ども24人、乳児院では子ども8人を見ている計算になります。また、職員の平均勤続年数は3、4年であり、特定の職員との継続した愛着形成は望むべくもありません。乳幼児は、建物に愛着を持つのではなく、移り変わっていく大人ではなく、自分だけを愛してくれる「いなくならない大人」に愛着を持つものです。
2002年11月3日、栃木県宇都宮市で、養育里親が3歳の女の子を殴って死なせてしまいました。亡くなった女の子は、生後すぐに乳児院に入れられ、3才過ぎて委託されるまで乳児院で育ちました。一方、1才まで母親の元で育てられ、妹と一緒に乳児院に入所した兄(4才)は、虐待の形跡も見られず、里親との関係は良好だったようです。このことから、生後すぐに乳児院に入所し、24時間の集団養育環境で育った妹の順子ちゃんは、反応性愛着障害児の可能性があり、大変に育てにくい子であったと推測しています。
特定の養育者との愛着形成が出来ず、「反応性愛着障害」となった子どもの養育が大変に難しく、その結果、虐待につながりかねないということは、過去から多くの里親たちが指摘してきたことです。
近年知られてきたRAD(Reactive Attachment Disorder−反応性愛着障害)は、乳児院など施設の集団養育が長く、特定の養育者との信頼関係を築き得なかった子どもがなるといわれています。
「厚労省調査」によると、里親家庭からの措置変更数は、里親家庭から里親家庭へ78名、児童養護施設へ269名、情緒障害児施設へ11名、自立支援施設へ12名、乳児院へ5名、合計375名が措置変更となっています。これは、同調査の里親委託児童数2,454名の15%にあたり、全てだとはいえませんが、いわゆる「里親不調」も含まれるものと考えられます。
アメリカでは、反応性愛着障害を治療する通所施設(attachment center)が、州ごとに作られていると聞きます。日本でも、少なくとも、「乳幼児は原則里親委託」とすれば、「里親不調」や「反応性愛着障害」の問題は減らせるものと考えます。
少子化により子どもの数が減っているにもかかわらず、養護施設・乳児院への措置児童の割合は減らず、里親委託児童の割合のみが減少していました。登録里親への委託は2〜3割を推移しているので、乳児院・養護施設の入所児童の減少を、里親委託の対象児で補っていると言えます。
平成11〜13年度で下げ止まりし、少しずつ里親委託率は増えていますが、平成17年度末の養護施設の定員充足率が91.5%であるように、養護施設が満杯状態になり、その受け皿として里親委託が増えている状況です。
児童養護施設の数は、平成元年度の535施設から減少し、平成9年度の526施設から増加に転じ、平成17年度では558施設となりました。養護施設の建設は続いていますので、施設入所の調整弁として里親委託が使われている現状から、養護施設の運営定員の確保のために、再び減少することもありえます。
都道府県市別に見ると、里親委託率が第1位(38.5%)の川崎市と、最下位の愛媛県(1.4%)を比較すると、27倍もの格差があります。川崎市で措置された子どもの4割弱が里親家庭に行くことが出来るのに比して、愛媛県では、里親家庭に行くことが出来る子どもはわずか1.4%です。(P4グラフ)
養護施設の定員充足率と、里親への委託率には相関が見られません。養護施設が定員いっぱいであっても、里親委託が低い自治体と高い自治体があります。子ども時代の全てを施設集団の中で育つか、里親家庭で自分だけ大切にされて育つかは、措置された自治体によって決まります。
平成17年度末現在は、里親委託児3,293人(9.1%)、児童養護施設入所児29,850人(82.6%)、乳児院入所児3,008人(8.3%)であり、社会的養護の児童数は36,151人となっています。
里親へ委託された子どもは、社会的養護を必要とする子どもの9.1%に過ぎず、残りの90.9%の児童が施設にいる「施設大国」となっています。
この、子どもの権利条約第20条で定める「子どもの家庭で暮らす権利」が守られていない日本の現状は、国連子どもの権利委員会からも憂慮され、改善勧告が出されています。
昨年(2006年)、韓国で開催されたアジア里親大会では、日本と同じ施設大国であった韓国が、10年間で、里親養育が半数以上になったと報告されました。その大きな理由のひとつに、里親委託事業を公的機関だけでなく、民間機関にも行わせ、官民で競わせているとのことです。
アメリカでも、里親委託や委託後のケアについて、民間社会福祉事務所に行わせている州があります。
0歳から18歳まで乳児院・養護施設で育つ子どもにかける経費は、約9600万円です。里親養育は、約2000万円です。なぜ、子どもたちは、1億円ちかいお金をかけながら施設に居続けなければならないのでしょうか。
私たち里親が、家庭で育つことのできない子どもたちの代弁者にならなければ、いったい、誰がなってくれるのでしょうか?
多くの里親と関係者に以下の呼びかけを、自治体職員や議員に伝えて欲しいと願っています。
※ここに掲載出来ない資料は、以下のサイトに掲載しました。
里親さんを勝手に応援するサイト
http://sky.cside6.com/hooray-fosterfamily/