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12・23 宇都宮里親傷害致死事件シンポジウムの報告

当日資料

1.シンポジウム事務局資料(PDF形式 507KB)
2.津崎哲雄 京都府立大学教授資料 (PDF形式 1198KB)
  里子死亡事件の教訓・英日比較:丸投げ「里親委託」からの脱出を!!
3. 矢満田篤二子どもの虐待防止ネットワーク・あいち理事資料
  「まず気付いた人が語り継ぐことから」 (PDF形式 61KB)


 平成15年12月23日、神楽坂エミールで「宇都宮事件が問いかけるもの−宇都宮事件の判決を受けて里親制度のあり方を考える−」と題したシンポジウムが開催されました。年末のあわただしい時期にもかかわらず、60名もの参加者あり、熱心な議論を交わしました。
 主催の「宇都宮事件を考える会(以下「考える会」)」は、東京周辺の里親と関係者・支援者で構成された団体です。

 基調報告「宇都宮里親傷害致死事件の経過報告」では、宇都宮事件の裁判を全て傍聴した、考える会事務局長の竹中氏が事件の発端から、裁判の様子、判決文、控訴までの流れなどを説明しました。

 続いて、
「控訴審弁護団報告」を宇都宮事件控訴審の東京弁護団の平湯真人弁護士が、控訴審の意義や今後の方向性について話されました。
 「非行少年の問題、学校教育の問題、養護施設の問題、福祉の問題、虐待の問題など活動してきた。こんど、里親家庭の問題に関わることになった。子どもを社会的に養護する立場でも、施設内虐待など加害者の立場になることもある。宇都宮事件は懲役4年の判決。里親家庭の事件は、子どもの権利を守る世の中になって、初めてといえる事件。結論の刑が、実刑か執行猶予かも大きいが、前提として、里親家庭の問題・悩みが、裁判所にきちんと理解された上での判決でないと、本人も納得出来ない。子どもも浮かばれない。裁判所がどのように評価したのかも、制度や社会に影響してくる。地方裁判所でそれが十分できなかったら、高等裁判所でしっかりやらなければならない、ということでお手伝いすることになった。弁護士会の子どもの権利委員会で同士を募ったら、6人が手を挙げた。判決後2週間ぎりぎりで控訴することになった。ご本人も、ご主人も、実刑判決が出たことには仕方ないと思っていたので、直ちに控訴とならなかった。里親の気持ちがつながって、控訴となった。ご主人は、どうして知らない人たちが応援するのか、怪訝な様子であった。本人に責任はあるが、本人だけの責任ではないと伝えた。高裁では、地裁と同じことをやらない。一審で足りないところを審議する。現在、審議の足りないところを文書で出す。重大事件なので、1月いっぱいの猶予をもらった。どのような証拠を出すか、承認をだすか、弁護団で検討中である。本人も、まだ宇都宮で拘留されている。審議が始まることには東京に来る。要望署名は、それなりに影響はある。社会的に多くの方が関心を持っていると示せれば、裁判官も社会的意味があると理解してくれる」

 次いで、海外事例報告「里子死亡事件の教訓・英日比較:丸投げ「里親委託」からの脱出を!!」と題して、津崎京都府立大学教授が講演をしました。(発言骨子は、こちら→)

 休憩の後、パネルディスカッションが始まりました。
 虐待防止センターの岡崎さんは、「養育里親さんが子どものことで悩んでいた。児童相談所に相談したら?と言うと、子ども自身が、施設に戻されるから絶対に言わないで欲しい。と答えた。話を聞くと、子どもはPTSD症状であったが、里親はPTSDを知らなかった。自分の育て方が悪いと悩んでいた。東京都も、里親の悩みは児相では無理だと思うようになってきた。児相職員は、話をカウンセリング的に聞く技術がない。児相に相談すると、すぐ措置解除を言われる。措置解除で子どもを施設に帰したとき、子どもだけでなく里親も深く傷ついている。このケアも、児相では無理。FCGという里親同士の悩みを話し合う場を設けている。そこで、いろいろ里親さんの悩みを吐き出している。
虐待防止センターで「愛着障害」などのセミナーを実施している。都からお金を出して里親に参加してもらえば、安あがりではないか。」などと話されました。
 元愛知県児童相談所児童福祉司の矢満田篤二さんは、里親家庭だけでなく、実親家庭の愛着障害と虐待事件の関連について話してくださいました。また、「赤ちゃん返り」「里親だめし」の実例をビデオなどを使い、話されました。また、児相職員が知識を持たずに里親委託を行っている実態を話されました。10年以上経験を積まないと里親のケアは出来ないと話されました。
 東京都養育家庭連絡会の若狭佐和子さんは、「実子の時には簡単な一言が、里子にはなかなか伝わらない。ついつい怒ってしまう。これが里子養育の難しさかなと思う。同じようなことで里親は悩んでいる。いままで人に相談することはなかった。それではだめだと思い、FCGにも参加している。話すだけで楽になる。子どもの問題など、どこに相談すればいいのか知識が必要。」
 平湯弁護士は、児童福祉法における里親の位置づけについて話されました。今日の集まりを弁護団として弁護方針を考える材料にしたい。宇都宮事件の判決では、望んで里親になった以上、実親以上に高いレベルを要求し、覚悟しているはずだと述べている。子育ての大変さは、実親以上に大変なんだと、どう裁判官に判らせていくか。証人候補なども考えている」などと話されました。

 続いて、会場からの発言がありました。

東京の里親
 「施設職員の専門性を生かすために、施設職員を里親にするのはどうか。もっと施設資源を活用する方向に行った方がいい」

施設内虐待を許さない会
 「宇都宮では、施設の虐待を第三者委員会や運営適正化委員会、児童相談所に訴えたが、何のお咎めもなかった。養護施設の建て替えも、時代に逆行する大舎から大舎。県知事が出席した県養協会長の養護施設の落成式では、子どもの部屋のドアに、素通しの大きなガラス窓があって、中が丸見え。誰もプライバシー侵害だと思わない。栃木県全体の児童養護のレベルが低いのでないか。」

栃木県の里親
 「事件を知ったときは、すごいショックで、わんわん泣いた。児相職員は専門性がない。家庭訪問で子どもの話をしても、メモも取らない。高校生がガス銃を持って、私を殺すとすごんだ。児相に報告したが、愛着障害・解離障害・PTSDなどの知識もない。この事件は、児相も里親もワーカーも子どものためにと、善意の狭間で起きた事件だと言う人がいる。善意ではない、無知であり、怠慢が子どもを殺した。今回の事件は、ハイリスクの子どもをハイリスクの里親に預けてしまった児相の責任。」

千葉市の里親
 「10年前、虐待を受けた子どもを預かった。ひょっとしたら、自分も被告席に立ったかもしれないと思った。主人が精神科の医師をしている。専門家であっても、家庭で子どもを見ていると、精神科医であることを忘れるほど。子どもの悲鳴をテープに取っている。裁判の証拠として使って欲しい」

里玉県の里親
 「事件を知ったとき、自分も同じだと思った。殺さずに済んだのは、施設に帰したから。子どもは、5才まで誰からも愛されず、施設で育った。愛着障害が子どもを人間でなくする。判っているのに、なぜ、乳児院で子どもを育てるのか。人間として必要な基本的信頼関係を作っていないのを、後から修復するのは本当に大変。虐待を受けた子は、虐待を誘発する。順子ちゃんの死を無駄にしないように、里親が子どもを虐待しないような仕組みを考えて欲しい」

東京の里親
 「里親歴25年。覚悟して里親になったと言われた。でも、子どもを家庭に迎えたいという気持ちだけで里親になった。覚悟したわけではない。育ちあう中で、児相に相談しても得られない。主人が遅くて家にいない。いま、子どもが家庭を持った。ボクに守る家族が出来た、と言われたとき里親になって良かったと思った。子どもたちを突き放さず、闘う力があったから出来た。その力を得られる相談体制が欲しかった。私たち里親が、里親っていいですよ、里親やりましょう、と私たちが言える制度でなければ、だめだと思う」


 最後に事務局より、「宇都宮事件の公判に関する要望署名」の提案を行い、承認されました。是非、多くの方の署名を集めたいと考えています。
 最後に、「宇都宮事件を考える会」会長の高瀬礼子氏が締めの挨拶をしました。
 「いまも苦しんでいる里親がいることが判りました。今後は、全国の里親と関係者からの支援で、裁判を応援していく。その連帯が生まれていく。子育てに成功した人中心の里親会であってはいけない。新しい人も相談しながら、支え合っていく、そんな里親会になって欲しい。大変な子どもをどこかにまわすのではなく、助け合って、どうすれば出来るのだろうと工夫しあっていけば。いま家にいる子は、児相で「ぶどうの木」のビデオを見て、里親家庭に行きたいと言った。お母さんかと呼べる人が欲しいんだと言った。。そういう気持ちを持っている子供を受け入れる里親でありたい。来年も引き続きご支援をお願いしたい」と話しました。

 最後に裁判への支援として、カンパをお願いしました。経費を差し引き、107279円のカンパが集まりました。ありがとうございました。
 宇都宮事件を考える会では、裁判の支援費用として100万円を目標にカンパを募っています。ご支援下さる方は、以下の口座にお振り込みください。また、署名も募っています。ご協力をお願い致します。

署名送付先  宇都宮事件を考える会
    〒162-0823 東京都新宿区神楽河岸1−1
   東京ボランティア・市民活動センター メールボックスNo.84

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        宇都宮事件を考える会