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里親支援に関する報告書
平成15年3月  栃木県里親支援検討班


1.はじめに
 里親に委託措置していた3歳の児童が里母から殴打され、急性硬膜下血腫により死亡するという事件が発生した(平成14年11月3日)。この事件を受けて、二度とこのような不幸な事件が起こらないよう、里親認定時の調査、委託里親の選定、委託後の指導や研修、相談のあり方について検討し、里親への支援体制の強化に資するため、平成14年12月6日に、児童家庭課、児童相談所、福祉事務所、里親連合会、乳児院、児童養護施設、市町村の各代表者からなる里親支援検討班を設置した。

2.検討に当たって行った調査等
(1) 里親委託児童の現況把握
 平成14年11月1日現在、67名の児童が里親に委託されていたことから、平成14年11月6日から11月18日までの間に全委託家庭を対象に、担当児童福祉司による訪問調査を実施した。調査では、里親及び委託児童に面接し、児童の養育状況の把握及び上の悩み等のほか、児童相談所に対する要望についても把握することとした。
(2) 栃木県里親大会での里親からの意見聴取
 平成14 年11月14日に開催された栃木県里親大会において、今回の事件に関する里親の意見や県・児童相談所への要望等を聴取した。
3.検討のポイント
 里親への児童の委託の流れは、里親の認定・登録、児童相談所における里親委託の決委託後のフォローの3つの段階に分けられる。現状は、以下の通りである。
(1) 現状
@里親の認定・登録
 里親からの認定等申請書は福祉事務所、児童相談所を経由し、必要な調査が行われた後に、児童家庭課に提出される。児童家庭課では社会福祉審議会児童福科会里親等審査部会に認定の適否を諮問し、その答申を受けて認定等の決定を行う。

A里親委託の決定
 児童相談所は、児童の保護者の状況を調査し、保護者と児童の診断を行い、里親委託が適当と認めた場合には、最も適合する里親を選定し、児童と里親の事前の引き合わせ交流を行った上で、委託を決定する。

B委託後のフォロー
 児童相談所は、児童委託後必要に応じて里親家庭を訪問している。また、県は、委託里親、未委託里親、新規委託里親を対象として毎年研修会を開催している。さらに、里親連合会でも独自の里親交流の機会を設けて、里親の交流の場を確保している。
 これらのことから、次の3つのステップに分けて検討することとした。
(2) 検討のステップ
@認定
・どのような調査が必要か
・認定に当たって考慮すべきことは何か
A委託
・研修のあり方で改善すべき点はあるか
・委託の方法で留意すべきことは何か
Bフォロー
・児童相談所の支援体制の強化について
・里親会の支援体制(自助グループ)について
・地域資源の活用について

4.里親支援のあり方について

認定
(1) 里親の啓発啓蒙について
@ 里親制度についての県民の理解を促進するため県広報誌や市町村広報誌等々を利用してその周知を図る。
A 里親に関する広報をする際に、里親の役割は児童養護施設と同様に児童に対する「社会的養護」であることを明確に伝えていく。
(2) 福祉事務所及び児童相談所が行う調査
@ 子育ては夫婦が協力して行うことが何よりも大切であることから、里親申込者が夫婦の場合には、夫婦同伴の面接調査とする。
A 調査項目の中に、里父の育児参加ヘの意向確認を加える。( 里父の勤務状況等を参考にする。)
B 近隣との係わりや地域活動の有無を確認するため、担当民生・児童委員からの聞き取り調査を行う。
(3) 里親登録の認定基準について
 現在の基準は、門戸を広くするために、極めて幅広い表現となっている。その結果、里親として登録したにも係わらず、様々な理由により委託しない里親が出てしまっている。
 このため、平成15年度に、児童相談所が中心となり、里親として認定することが適当であるかどうかの判断をする際の基準づくりをしていく必要がある。
委託
(1) 委託前研修について
 委託前の研修を充実する。特に、里親委託の意味や子育てする際に抑えておくべき親としての態度や姿勢等について5段階、5回の体系的研修カリキュラムを組んで必修研修とし、この研修を履修しないと委託することができないものとする。
 また、児童委託後の研修についても受講することを約束させる。
(2) 里親手帳の作成
 研修の受講歴、里子受託歴等里親委託する際に参考となる事項を記載することができる里親手帳を登録里親全員に交付する。また、この手帳には子育てに関するQ&A等育児の参考に供する情報も盛り込んでおく。
(3) 里親選定から委託までの方法について
 4種類の里親形態となったことから、現行の里親候補者と児童の「お見合い方式」について再検討を加えることとし、児童相談所職員による検討を進める。
例)養育里親に委託する際は、施設に在籍させたままの長期の発達観察等委託する。
フォロー

(1) 児童相談所の支援体制について
@訪問について
 「新規委託後、数ヶ月が最も不安定だ。」「不安定な時期を上手に乗り切ることによって子育てへの意欲や愛情が深まる。」との意見がある。
 このため、児童相談所は新規委託後4カ月までは、最低月1回は里親訪問を行い、児童相談所と里親の信頼関係を深めるよう努める。

A研修会の実施について
 委託後1年間は、児童相談所が継続的に関わりを持つことによって里親の安心感を醸成し、委託児童との安定した関係が築かれるよう援助していく必要がある。
 このため、新規委託里親については、4カ月を経過した後、児童相談所で実施する研修会(里子の育児に関する質疑応答を含む。)には必ず出席するよう事前に取り決めておくこととする。
B相談窓口の一本化
 里親から「児童相談所の担当職員がすぐ代わってしまうので信頼関係が持てない。」との意見が出されたことから児童相談所に専任職員等の配置を行って、相談窓口の一本化を図る。

意見、提言、要望等 15.3.25

摘要 ●里親支援検討班の意見・提言等
    □里親委託児童現況調査による意見・要望等
    ◇栃木県里親大会での里親からの意見等

@認定について
●里親申請時に行う調査で、里親の健康度調査(適性検査)をする必要があるのではないか。
●健康度調査で近隣を調査されることについては、養子縁組希選者は拒否的になるだろう。
●認定後すぐ、情熱のある内に研修を行った方が良い。
●犬、猫や樹木にも里親という言葉が使われているが、抵抗を感じる。本来の里親以外、里親という言葉を使って欲しくない。
□先生や保母など、事情を承知しておいて欲しい人たちに制度を理解して欲しい。
□里親に登録になってから研修会等に積極的に参加してきたが、同じ立場の里親さんと知で、悩みが解決したり子どもへの対応を確認できたりしたと思う。
□登録後すぐに研修を実施する。(意欲がさめないうちに)
□委託前に基本的な子育ての方法・知識を吸収する場があると良い。
◇ 里親制度自体がまだまだ一般住民に周知されていない。もっと間口を広げて里親制理解してもらう必要がある。
◇研修を受託前、受託後と受ける必要がある。
◇今回の事件は、社会に里親制度を認知してもらう種と考えている。
◇国際遺児を養育していたが、里親制度を知らなかった。
◇ 里親という言葉は古いイメージが強い。イメージアップが必要。
A委託について
●子育てについての実務的な研修(児童の福祉施策についてなど)があると良い。
●里親研修受講の義務化は原則的に必要なこと。
●児童の受託前と受託後にわたって、体系的な研修が必要であり、カリキュラム化と受講の(単位制化)も必要。受講した者に優先的に委託していくという方法もある。
●養育里親と養子縁組希望里親とでは意識が違う。研修もそれに応じて分ける必要がいか。
●里親手帳のようなものをつくり、研修への参加を促す方法もあるのではないか。
●児童相談所が行うこととして、委託後4ケ月間は月1回の家庭訪問、委託後6か月から1年後を目途に研修を行ってはどうか。
□お見合いから委託までの期間を短くして欲しい。
□委託するときに約束(児童相談所と里親間で通所・面接の取り決め)をし、約束できなけ約束しなければ委託しない。
□委託児童が2人になると1人のときの何倍も大変になるので、2人以上の受託は困難
□里子を預かる時期は施設生括が長くならないうちの方が子育ては楽。
◇事件当事者は、登録されてから委託されるまでの期間が短かったように思う。更に、兄の委妹を委託するまでの期間も短かったのではないか。
◇兄妹を一人の里親に委託する負担の大きさはなかったのか。
◇虐待はどこでも起こりうること。(施設・保育所等)
◇乳児院の職員に「何かあったらすぐ聞いてね。」と言われ安心した。
◇乳児院に3歳近くまで置かないで、できるだけ早く里親委託すべき。試し行動が出る前に委託して欲しい。
◇1人目であたふたしているが、2人目も欲しいと考えている。「一人も受託していない人がいるのに… 。」と言われるが、2人目は無理なのか。
◇お見合いから委託まで5〜 6か月かかったが、根気強く面会を重ねることが必要。当時は大変だが、今は懐かしい。

Bフォローについて
●児童相談所は何か問題があったら相談しなさいと言うが、里親は相談すべきことが判断できない。定期的に訪問して欲しい。
●学校が里親制度を理解していない。周知して欲しい。
●受託児童の特徴、履歴を知らせて欲しい。
●18歳で解除した後のフォローが必要。
●告知の問題をどうするかが課題。
●特別養子縁組をした里親は一般の子育てサロンにも行く。しかし、それでも里子であるこどもに知られたくないという思いが強い。児童相談所とか里親とかいう表現が出ては困る。わからないようにして欲しい。しかし、一方で、里親会とはつながっていたいという思いがある。子どもにわからないような親の会があると良い。
●家庭児童相談室は年齢を気にせずに相談に応じられる。
●家慮児童相談員の関わりについては、受け入れるかどうか、里親によって反応が異なると思う。
●子どもが18繊になったら自立させるという意織を持たないと、養育里親になり得ないのではないか。
●子どもの自立の意識づけは児童相談所にも取り組んでもらいたい。18歳以前からそれは必要である。
●里親に預ければ児童相談所の関わりは一応終わるというのがこれまでのあり方。今後の養育里親は、子どもが18歳になれば自立させるものと割り切る必要もある。
●里親は実親ではないという意識を持つべきなのではないか。
●里親も色々なケースがあるので、個々に応じた児童相談所の関わりが必要。
●班活動のセルフ・ヘルプも重要。
●児童相談所の人との信頼関係が大切。里親は、自分たちを良く知っている担当者に相談したい。
●児童の記録を知りたがる里親もいる。
●児童の履歴を今後は知らせていく必要がある。養育計画書に盛り込んでいく必要がある。
●児童の履歴等は守秘義務の関係もあり、全てを教えることはできなかった。しかし、制度改正により里親にも守秘義務が課せられるようになったことから教えることは可能となった。
●児童の履歴等を教えることは児童相談所の判断である。
●児童の履歴等は、養育計画等の中に示して欲しいという里親からの要望があった。
●横のつながりを作るため、新たに委託された里親の名簿を班員に配りたい。
●里子の会も作ったらどうか。
●未委託里親の若い人たちの中でグループを作り、役員を選出したらよいのではないか。(里親とての意識の向上のため)
●仲間同士だけの研修・お茶飲み会も欲しい。
●子どもを受託しながら研修を受けないのは良くない。
●里親会が主催して里親のサロンを毎月開催すると良い。
□里親が入院したときに安心して子どもが預けられる施設(家庭)があるとよい。
□定期的に児童相談所に通所していたことから、児童相談所に支えられている感覚を持った。
□児童相談所は里親を信頼し、寛容な姿勢で見守って欲しい。
□児童相談所は忙しいと思われているので、相談を躊躇する里親がいるかもしれない。
□進学(進路)決定に当たり指導願いたい。
□受託直後はいろいろ悩み、乳児院や先輩里親に相談することが多かった。
□児童相談所の訪問回数は適当ではないか。
□解除になった児童との関係について悩んでおり、関係も切れないでいる。
□里親であることを告知しなければならないが、いつするかが課題。
□里親間の支援体制や地域での支援体制(民生委員等)が図れればよい。
□児童相談所より育児サロンで知り合った人や、生のアドバイスを得られる先輩里親に相談してきた。
□初めての子育てで不案だが、身近に相談できる人がいると心強い。
□先輩の母親からアドバイスを受けたり、保育園の保育士に相談を持ちかけると心強い。
□「実の親子でないJため、児童相談所以外の人に事実を踏まえて相談することは難しい立場の特殊性を踏まえた相談体制の充実を期待したい。
□里親の息抜きが必要なとき、出身施設にショートステイ的に預けることはできないか。
□委託後、定期的に家庭訪問をして欲しい。
□里親と里子の間に解決できない問題が生じた場合には、児童相談所の助言が欲しい。
□養子縁組後も、家庭訪問などによる児童相談所の積極的な支援をお願いしたい。
□18歳以降もフォローしてもらえるような制度の整備を求める。
□同じ「里親という立場で気軽に相談できる人と接する機会が欲しい。
□里親同士がお互いに行き来できるシステムがあれば、養育上の悩みを緩和できると思う。
□特別養子縁組の手続きを指導して欲しい。
□児童相談所にはもっと綿密に関わって欲しい。今後もっと相談に乗って欲しい。
□児童相談所には必要以上に関わって欲しくない。子どもに知られないようにして欲い。
□児童相談所はもっと専門性を持ち、里親の不安をきちんと受けとめて適切な援助をして欲しい。きちんと援助ができないのなら下手に関わらないで欲しい。
□児童相談所とは今後も協力してやっていきたい。
◇養育していく中で誰もが多少なりとも問題を抱えていると思う。気軽に相談できる人が存在していることはとても大切。
◇愛着障害の問題は多いと思う。色々な形で出て、人生を不幸にしているような気がしている。その辺りの勉強をしてみたい。
◇里親会をもっと利用して里親同士のコミュニケーションを取り、自分一人で考えていないで行動を起こして欲しかった。(今回の事件について)
◇里親会が実施している行事等には出席し、里親同士が交流することが大切である。
◇夜泣きの対応ができなかったとき、「生みの親なら泣いている理由がわかるのか、里親だからわからないのか」と考えた。
◇養育していない期間の情報(母子手帳等)が欲しい。
◇里親と児童の管轄児童相談所が違うと、どちらに相談してよいかわからない。一本化して欲しい。
◇児童相談所の担当職員がコロコロ変わるので、信頼関係を持って話ができない
◇里親の方でも「子どもを帰す勇気」も必要
◇今回の事件について、班長として責任を感じている。電話したが連絡が取れなかった。新規委託した場合、班に連絡が欲しい。
◇おしゃベりの会でもいいから、地区で立ち上げるペき。
◇里親同士のチームサポートが必要。(児童相談所が先輩里親に連絡し、先輩里親が新規里親をサポートする。)
◇誘っても研修会に参加しない里親がいる。
◇地区毎に児童相談所に来てもらい研修できる場があればよい。
◇里親は親の見本というプレッシャーがある。
◇里子であることをいつどのように知らせるか悩んでいる。
◇盗みや嘘といった問題行動に悩まされ、その対応に苦慮したことがある。