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2004/10/1 文責:sido
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平成16年秋の児童福祉法の改正では、「里親の条文化」や「里親への親権の一部付与」などが予定され、児童養護施設や乳児院と同じように、社会的養護の一端を担う立場となります。そこで、里親に一部付与される親権などについて、整理してみました。・未成年者及び児童満20歳に満たない者を未成年者といいます。(民法第3条)ただし、満20歳に満たなくても、婚姻をした場合は、成年に達した者と見なされます。(民法第753条)しかし、未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければなりません。 また、児童福祉法第四条では、「児童とは、満十八歳に満たない者」とし、児童を、@乳児(満一歳に満たない者)、A幼児(満一歳から、小学校就学の始期に達するまでの者)、B少年(小学校就学の始期から、満十八歳に達するまでの者)、の3つに定義しています。 民法で定義する「未成年者」と児童福祉法で定義する「児童」の年齢のずれを意識しながら、整理を勧めていく必要があります。 ・法定代理人法定代理人とは、法律で定められた代理人です。子どもの代理人は、通常は親権者ですが、親権者がいない場合は、未成年後見人(後述)が法定代理人となります。法定代理人の権限は、以下のものがあります。(民法第4条〜6条)
・親権及び親権者「親権」とは、未成年の子を養育する権利と義務、子の財産について管理、処分する権利と義務を含み、民法では、「監護・教育権」「居所指定権」「懲戒権」「職業許可権」「財産管理権」「代表権」などが定められています。子どもを健全な社会人として養育する目的のために必要なことを行う権利と義務であり、子どもの福祉と利益のために行使されなければなりません。子どもに対して親権を有する者を「親権者」といい、通常は父母がなります。(民法818条) ・改正児童福祉法による親権の一部付与改正児童福祉法では、親権のうち、「監護権」「教育権」「懲戒権」の3つが里親に付与されます。また、第31条に里親が追加されたことで、「満二十歳」に達するまでの措置の継続が可能になりました。・未成年後見人未成年者に親権者がいないとき、または、親権者が管理権を有しないときは、児童相談所長が家庭裁判所に対して未成年後見人の選任を請求しなければならないことになっています。(児童福祉法第33条の七)そして、未成年後見人が、未成年者の法定代理人となります。(民法838条) ・保護者ついでに、「保護者」についても整理します。学校教育法と児童福祉法とでは、保護者の定義が違います。学校の書類の保護者欄に里親名を記入していますが、学校教育法では、里親は保護者ではありません。ただし、児童福祉法では、保護者は「児童を現に監護する者」を含むため、里親は保護者となります。学校現場では、里親は「保護者」なのでしょうか? この整理も必要だと思います。ちなみに、児童福祉施設長は、児童福祉法第48条で「保護者に準じる」とされていますので、学校教育法でも「保護者」扱いとなります。この条文に「里親」も入れるべきだと思います。 ・里親と施設長の親権の整理ここまで述べた親権について、判りやすく一覧表に整理します。 ※○権利あり
・里親と親権に関する問題点さて、親権などについて整理してきましたが、里親が子どもを養育する際の問題点について整理します。民法では、親権を行使する者がいない場合は、未成年後見人を選定することを定めているため、法的には、法定代理人がいない子どもはいないことになっています。また、児童福祉法でも、児童相談所長が家庭裁判所に未成年後見人の選任の請求を行うことを定めています。しかし、現実問題として、親などの親権を行使する者がいない子どもであるにもかかわらず、未成年後見人を選定されない子どもが少なくありません。そのような子どもでも、児童福祉施設では、施設長が児童福祉法第47条第1項により、親権を行うことが出来ます。しかし、親権者がいなくて、里親に委託された子どもについては、親権を行うものがいないため、子どもは無権利状態にあります。 また、児童養護施設でも、実親がいる場合には、施設長の親権が制限されていますので、以下に述べる、さまざまな不都合が生じていました。
・委託児童の不法行為と里親の損害賠償責任民法では、未成年者が他者に対して、故意又は過失で損害を与えた場合、責任能力がなかった場合は、責任無能力者として、損害賠償責任を負わないことになっています。(民法712条)この責任能力とは、自分の行為の結果、何らかの責任が生じるか否かを判断する能力を意味するものとなっており、12〜13歳程度になれば責任能力があるものと考えられています。 責任能力のない未成年者が、不法行為により第三者に対し損害を与えた場合には、未成年者が責任を負わない反面、法定監督義務者又は代理監督義務者が十分な監督義務を尽くしたことを証明しない限り、未成年者の不法行為に対する賠償責任を負うことになっています(民法714条)。 知事から児童の養育を委託され、親権(監護権)をもたずに養育する里親は、「法定監督義務者」ではなく、「代理監督義務者」だと考えられます。しかし、「代理監督義務者」であっても、里親は委託された児童の不法行為の賠償責任を免れることは出来ません。(民法714条A) 里親は、委託された子どもに対する法的権利(親権等)は全くありませんが、損害賠償などの法的責任だけは負わされているのが現状です。 現実には、都道府県では里親の損害賠償責任保険に加入していますので、保険で補償することになります。しかし、例えば、委託された子どもが原因で火災が起きた場合は、重大な過失が無ければ、「失火ノ責任ニ関スル法律」により損害賠償を免れることが出来ますが、近隣への道義的責任感から里親が個人的に賠償した場合は、保険から補償することはできません。 親権(監護権)の付与により、「代理監督義務者」から「法定監督義務者」になっても、児童の不法行為に対する損害賠償責任は変わりないと思われます。 ・今後の里親の親権の方向性
里親制度に関わる様々な法的問題を、弁護士を含めた検討会で整理し、どのように法的な解決を図っていくのか。厚生労働省や関係省庁の有権解釈や通達による解決を求めるのか、法的解決がつかない場合は、どのような法改正、立法が必要なのか。いろんな事例を検討しながら考えていく必要があります。 平成15年3月に出された「里親委託促進のあり方−里親委託促進のあり方に関する研究委員会報告書−(財団法人全国里親会)」には、親権の付与については触れていますが、具体的な内容にまでは踏み込んでいません。一個人の調査には限界があり、資料を探し出せないので、里親と親権の付与に関する議論をご存じの方がいたら、是非教えて下さい。 ※この整理は、弁護士に確認しながら書きました。法解釈などについて不適切な表現がありましたら、ご指摘ください。mail:sido@foster-family.jp |