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2004/10/10 update




「児童福祉施設による里親支援のあり方の調査研究委員会」
庄司順一委員長への公開質問




 平成16年2月、「児童福祉施設による里親支援のあり方の調査研究事業報告書」が出されました。この調査報告書は、「里親と児童福祉施設とが、社会的養護を必要とする子どもをケアするために協力、連携すること」を目的として作られました。
アンケートの回収結果は、里親が送付数2023名に対し、1203名の回収(59.5%)と、個人に対する調査としては、かなり大きな回収率となっています。通常の個人アンケートでは3割の回収率で成功と言われていますが、6割もの回収率は、本調査への里親の期待の高さが伺われます。

 また、児童養護施設は送付数551で回収率69.3%です。3割もの児童養護施設が、組織として回答しないことを決定したのであれば、残念な気がします。乳児院は、送付数115で回収率85.7%となっています。それぞれの回収率に、児童福祉施設と里親の温度差が感じられます。

 本報告書は、「児童福祉施設による里親支援に関する調査」と「里親支援を実施している児童福祉施設に対する訪問調査」の二つの調査をひとつにまとめられています。

 調査の内容は、80.7%(14年度)もの児童養護施設では、3年間の間里親委託がなされていない現実や、施設側は、養育里親よりも家庭体験事業を行える週末・季節里親(ボランティア里親)を求めている実態を明らかにしました。
 調査自体は、児童福祉施設と里親との関係、相互の思いを浮き彫りにしたすばらしい調査だと思います。しかし、最後の「考察とまとめ」では、里親への偏見を思わせる、画竜点睛を欠く残念な記述がありました。以下に記述します。
 

 また、社会的養護に置かれる子どもには、この選択肢のほかに、『居場所』を確保していくことが重要である。現状では、子どもが里親委託された時点で児童福祉施設や居住していた地域で培っていた人間関係が切れてしまうということが多い。乳児院から里親委託された子ども、児童福祉施設を経ずに里親委託された子どもはどこへ帰ればいいのだろうか。また、社会的養護の年齢制限後に、自分の居場所と認識できる場所へ帰ることのできる子どもはどの程度いるであろうか。子どもを主体とする支援を提供するためには、地域づくりとともに、子どもの居場所づくりも今後の課題である。
(※傍線は筆者)

 まず、「子どもが里親委託された時点で児童福祉施設や居住していた地域で培っていた人間関係が切れてしまうということが多い」という記述は正しくありません。まず、実親家庭から児童福祉施設に措置された時点で、子どもの地域・友達・学校の関係が断ち切られます。親が育てられなくなった子どもは、家庭を失うだけでなく、学校の友達を失い、地域の関わりを失い、知る人もいない遠く離れた児童福祉施設に一人で入所するのが現状です。児童福祉施設から里親委託をされて子どもの人間関係が断ち切られたのではなく、児童福祉施設に入所する時点で断ち切られるのです。
 ですから、私たち里親は、親が育てられなくても、施設ではなく地域の里親家庭で育ち、せめて地域や学校の友達関係は継続させたいと願い、「小学校区に一つ以上の里親家庭を!」と運動しています。

 「乳児院から里親委託された子ども、児童福祉施設を経ずに里親委託された子どもはどこへ帰ればいいのだろうか」との記述も、まるで、乳児院から里親委託をされた子ども、家庭から直接里親委託をされた子どもには、「帰る場所」が無いと言わんばかりの表現です。私たち里親は、子どもの「帰る場所」として家庭で育てます。また、乳児院が「帰る場所」とならないように、「乳幼児は原則里親委託」を要求しています。子どもにとって「帰る場所」とは、子どもが集団で暮らし養育者が交代勤務で変わる施設ではなく、自分だけの大人が育ててくれる家庭なのです。

 「また、社会的養護の年齢制限後に、自分の居場所と認識できる場所へ帰ることのできる子どもはどの程度いるであろうか」についても、里親家庭で育つ子どもは、里親家庭を「居場所」として育ち、自立したあとも、里親家庭を実家として帰ってきます。心の絆を法的な絆に広げたいと、養育里親から養子縁組をされる里親子もいます。
7月10、11日に箱根で開催された関東甲信越静里親研究協議会では、里親家庭を巣立った子ども達がパネラーとして発言しました。その席において、里親家庭で育った方たちに「居場所はどこですか」と質問したところ、「里親家庭です」と迷いなく答えて下さいました。さらに、「物心つく前に乳児院から里親家庭に行きたかった」とも言って下さいました。養護施設で育った方は、居場所については迷いながら、とうとう答えることが出来ませんでした。
 生後すぐに乳児院に入り、2才10ヶ月で里親家庭に行った子どもが半年ほど経って里親に言いました。「おとうさん、なんではやくむかえにこなかったの」と。その里親は、子どもを抱きしめ、泣きながら子どもに謝ることしか出来ませんでした。子どもの「居場所」は、家庭以外にあるのでしょうか。

 最後に、「この推進のため、来年度から里親と児童福祉施設のパートナーシップを図るための委員会づくりも企画されている。この委員会では里親と児童福祉施設の合同研修のあり方など、具体的な検討がなされる予定である。こういった歩み寄りは、今後の里親と児童福祉施設の新たな関係づくりの新たな一歩になると考えられる。」と締めくくっています。
 里親への偏見が見え隠れするまとめの後で、パートナーシップを提起されても、素直に受け取ることが出来ない気持ちになるのは、私だけなのでしょうか。


 さて、庄司順一委員長へ以下の質問をいたします。

  1. 子どもの居場所は、どこがふさわしいとお考えでしょうか。
  2. 1年以上乳児院にいる乳幼児が42.9%いますが、乳児院に入所している乳幼児は、どこに帰るのが乳幼児にとっての最善の利益なのでしょうか。
  3. 乳幼児の育つ環境は、「乳児院」と「里親家庭」、どちらがふさわしいのでしょうか。
  4. この報告書のまとめについては、特に今回の指摘部分について、委員会では、どのような議論があったのでしょうか。

 以上、施設と里親との誤解を解くためにも、是非ともお答え下さるようお願い申し上げます。なお、私が運営するサイトに於いて、質問を公開しております。ご返事につきましても、公開させていただきたいと思います。


  2004年(平成16年)10月10日

東京都養育家庭(里親) 

参考:東京養育家庭の会の資料室
「児童福祉施設による里親支援のあり方の調査研究事業報告書」
http://tokyo-yoikukatei.jp/data-room/data-index.html