99.現時点でのまとめ(04/10/01)
   現在、全データをわかりやすくグラフ化し、その上で、里親の立場と、子どもが家庭で暮らす権利の観点から分析したいと作業中です。

 

 最後の考察とまとめでは、「1.児童福祉施設による里親支援の実態と意識」として、児童養護施設では養育里親への委託よりも、季節里親・週末里親との関わりが多く、より積極的な取り組みが見られた。季節里親・週末里親を利用することの子どもへのメリットもあると認識する回答が多かった。
養護施設や乳児院が里親に提供できる研修内容と、里親側が求めている研修内容や相談内容が合致していることからも、相互に連携することが望ましいとしています。
 そして、児童福祉施設も里親も互いに向き合おうとする姿勢を読み取ることができるとしています。

 「2.これから始まる里親と児童福祉施設の新たな関係づくりへの課題」では、キーワードとして、「自己理解」「パートナーシップ」「キーパーソン」「子ども主体」の4つをあげています。
 「自己理解」では、里親には、「子どもを自子として育てる『親』ではなく、『社会的養護を担う存在』であるという自己理解を深め、それに沿った養育をすることが求められる」とし、児童福祉施設には、「施設に入所している子どもやその家庭のみではなく、地域に開かれた支援を提供する『専門職集団』であるとの自己理解が求められている」としている。
 「パートナーシップ」では、「同じ社会的養護を担うものとしての自己理解の次に、相互理解に基づくパートナーシップが重要である」としています。
 「キーパーソン」では、「児童福祉施設の施設長とともに活躍するキーパーソンの存在が必要」としている。
 「子ども主体」では、「生来の家庭・里親・児童福祉施設、このいずれの養育環境が『子どもにとって』ふさわしいのかという視点から、社会的養護を提供していくことが今後の課題である。同じ社会的養護を担うものとして、ともに対等な選択肢として共存し連携していくようにすることが今後必要ではないか」としています。

 しかし、「また、社会的養護に置かれる子どもには、この選択肢のほかに、『居場所』を確保していくことが重要である。現状では、子どもが里親委託された時点で児童福祉施設や居住していた地域で培っていた人間関係が切れてしまうということが多い。乳児院から里親委託された子ども、児童福祉施設を経ずに里親委託された子どもはどこへ帰ればいいのだろうか。また、社会的養護の年齢制限後に、自分の居場所と認識できる場所へ帰ることのできる子どもはどの程度いるであろうか。子どもを主体とする支援を提供するためには、地域づくりとともに、子どもの居場所づくりも今後の課題である(※傍線は筆者)」との文章には、疑問を禁じ得ません。里親制度を知らないものが書いたとしか思えません。

 この「子どもが里親委託された時点で児童福祉施設や居住していた地域で培っていた人間関係が切れてしまうということが多い」という記述は正しくありません。まず、実親家庭から児童福祉施設に措置された時点で、子どもの地域・友達・学校の関係が断ち切られます。親が育てられなくなった子どもは、家庭を失うだけでなく、学校の友達を失い、地域の関わりを失い、知る人もいない遠く離れた児童福祉施設に一人で入所するのが現状です。ですから、私たち里親は、親が育てられなくても、施設ではなく地域の里親家庭で育ち、せめて地域や学校の友達関係は継続させたいと願い、「小学校区に一つ以上の里親家庭を!」と運動しています。

 「乳児院から里親委託された子ども、児童福祉施設を経ずに里親委託された子どもはどこへ帰ればいいのだろうか」との記述も、まるで、乳児院から里親委託をされた子ども、家庭から直接里親委託をされた子どもには、「帰る場所」が無いと言わんばかりの表現です。私たち里親は、子どもの「帰る場所」として家庭で育てます。また、乳児院が「帰る場所」とならないように、「乳幼児は原則里親委託」を要求しています。子どもにとって「帰る場所」とは、子どもが集団で暮らし養育者が交代勤務で変わる施設ではなく、自分だけの大人が育ててくれる家庭なのです。

 「また、社会的養護の年齢制限後に、自分の居場所と認識できる場所へ帰ることのできる子どもはどの程度いるであろうか」についても、里親家庭で育つ子どもは、里親家庭を「居場所」として育ち、自立したあとも、里親家庭を実家として帰ってきます。心の絆を法的な絆に広げたいと、養育里親から養子縁組をされる里親子もいます。
 2004年7月10、11日に箱根で開催された関東甲信越静里親研究協議会では、里親家庭を巣立った子ども達がパネラーとして発言しました。その席において、里親家庭で育った方たちに「居場所はどこですか」と質問したところ、「里親家庭です」と迷いなく答えて下さいました。さらに、「物心つく前に乳児院から里親家庭に行きたかった」とも言って下さいました。養護施設で育った方は、居場所については迷いながら、とうとう答えることが出来ませんでした。
 生後すぐに乳児院に入り、2才10ヶ月で里親家庭に行った子どもが半年ほど経って里親に言いました。「おとうさん、なんではやくむかえにこなかったの」と。その里親は、子どもを抱きしめ、泣きながら子どもに謝ることしか出来ませんでした。子どもの「居場所」は、家庭以外にあるのでしょうか。

 最後に、「この推進のため、来年度から里親と児童福祉施設のパートナーシップを図るための委員会づくりも企画されている。この委員会では里親と児童福祉施設の合同研修のあり方など、具体的な検討がなされる予定である。こういった歩み寄りは、今後の里親と児童福祉施設の新たな関係づくりの新たな一歩になると考えられる。」と締めくくっています。

 しかし、「どのような環境で育つのが子どものためになるのか」、「子どもの家庭で育つ権利をどう保障するのか」、「子ども時代の全てを施設で過ごす子がいる現状をどうするのか」など、社会的養護の理念を確立せずに、里親と児童福祉施設のパートナーシップを図っても、子どもが置き去りにされていきます。理念無きパートナーシップは、単なる談合になりかねません。
誰のためのパートナーシップなのか、何のためのパートナーシップなのか、社会的養護の基本理念を見定めながら、パートナーシップのあり方を議論すべきでしょう。

 さて、今回のアンケートは、1203名の里親と390か所の児童養護施設、100か所の乳児院が回答して下さいました。しかし、報告書は、全国の養護施設・乳児院と、都道府県政令市の児童家庭課に送られ、里親へは、都道府県政令市里親会のみに送られました。本来、アンケートに回答した全里親に送るべきものですが、予算の都合で送ることが出来なかったと、事務局(全国社会福祉協議会)からの回答があり、その代わりとして、電子化した報告書をいただきました。
 そこで、東京養育家庭の会ホームページに、本報告書の全文(118ページPDFファイル510KB)をアップしました。どうぞ、ダウンロードし、全文をお読みいただければと思います。(文責:sido)

東京養育家庭の会の資料室
http://tokyo-yoikukatei.jp/data-room/data-index.html


一番初めに戻る